独立する前に会社勤めを経験したほうがいいのかについて、経験者が思うこと

働き方について

こんにちは、藪内です。

 

いつの時代にも俎上に載る論争に「独立・起業する前に会社勤めを経験しておいたほうがいいのか」というテーマがあります。

これについては、会社勤めを経験していない人がまことしやかに述べるな、とか、会社勤めしかしていない人が偉そうに言うな、みたいな「言論の取っ組み合い」になっていることがよくあるのですが、正直言ってそういうことにエネルギーと時間を使うのは不毛だと思っています。

 

で、このテーマについての自分なりの見方は、とりあえず「スキルそのものの問題なのか、人脈や政治力の問題なのか」という風に、問題を更にセグメンテーションしないといけないと考えています。

 

ので、今回は表題のテーマについて詳しく、僕の考えをまとめていきたいなと。

 

一応、僕は会社員を経験してから独立をしているわけで、その両方の経験を止揚(アウフヘーベン)して、少し違った視点を提供できるのではないかと思います。

 

最初に考えるべきは、両者の「仕事的価値」は違うということ

まず、このテーマについて考えるときに、どういう視点から切り込んでいけばいいのでしょう。

 

それは、フリーラン(あるいは起業家)と会社員では、「何に対してお金が払われるのか」ということがそもそも違う、ということです。

 

フリーランスというのは、言わずもがな、「自分のスキル」に対してお金が払われます。

翻訳であれば、毎月コンスタントに仕事をしてアウトプットをするスキル、ライターも、納期までに成果物を提供するスキル。フリーランスと言えど様々な業種がありますが、基本的に「成果報酬」(案件単価)での契約・支払が行われる業務(職種)では、「自分のスキルを売っている」と考えるのは、特に難しくないことだと思います。

 

では、会社員というのは何に対して価値が払われるのかというと、「時間を会社に提供する」というのが、根源的な認識です。ですから、普通は会社勤めをしていると「月給」「残業代」という、「時間単位での報酬」を基準に物事が考えられています。

 

ですから、職種によっては自分の職務範囲が明確に決められていない(人の仕事を対応する場合もある)こともあります(ただ、これは別に悪いことではなくて、組織として仕事をしているのであれば、誰か1人が欠勤したときなどに、代わりの社員でカバーする、という仕組みが出来上がっています)。

 

そして、会社員でも「インセンティブ」といった、一種の成果報酬が導入されていて、フリーランス的な要素が入り込んでいる企業や職種だってあります。一方で、フリーランスでも観光ガイドなどであれば、仕事の計算基準は「何時間でいくら(あるいは1日いくら)」という、時間単位での計算になることだって、もちろんあります。

 

ただ、総合的に見れば、「フリーランスはスキルを売る」「会社員は時間を売る」というスキームで世の中が回っているのは否定しがたい事実です。

 

ということは、会社勤めを経験してから独立をする場合、この「何に対してお金が払われるのか」という違いをきちんと認識しておく必要がありますし、これらの違いを分からずに、会社勤めの論理でフリーランスはできないし、逆にフリーランスの論理で会社勤めをするのは、仕事を進めるパートナーにとって不利益を被らせる場合も起こりうるでしょう。

 

ですから、フリーランスとして会社員(法人顧客の、中の人)と仕事をする場合は、時には「相手の時間を奪わないように」という認識を持って、メールのやりとりなどをしたほうがいいです。

 

会社勤めを経験せずにいきなり独立した人にありがちなのが、メールライティングの基本がなっていない、とか、コミュニケーションがうまく取れずに仕事がやりづらい、といった印象を、クライアントに持たれてしまうことです。僕は、たまに取引先に挨拶に行って担当者と話をすることがあるのですが、フリーランスの登録スタッフの中には、メールの書き方が自由すぎで、やりとりがし辛い、と思われてしまう人もいるようです。

 

別に、メールライティングを学ぶために会社勤めをせよ、と言っているわけではありませんが、多くのフリーランスは、仕事相手が企業の中の人(つまり会社員)になるわけですから、最低限のメールライティングであったり対応であったり、という「仕事のエチケット」は、わきまえておいたほうがベターなのは間違いありません。

 

僕は会社員時代に、自分以外の社員にかかってくる電話の取り次ぎに追われて自分の仕事が全く進まない、ということも経験したことがあるのですが(そこまで、組織内の連携ができないほど小規模な会社でした)、あの時の経験のおかげで、独立してから、「社内スタッフの負担をできるだけ減らすにはどういう文章を書けばいいか」「この問い合わせは本当に必要なことなのか(自分で調べてなんとか解決できないか?)」ということを考えられるようになりました。

 

独立前に会社勤めをするかしないかに関わらず、フリーランスといえど(クライアントワークをする限りは)会社員の人たちと一緒に仕事をしていくわけですから、ビジネスパートナーのことを想像できる力は必要ではないかと思います。

 

会社勤めでスキルは磨かれるか

続いて、こちらのほうが多くの方が興味があると思いますが、「会社勤めでスキルは磨けるか、そしてそのスキルは独立後も活かせるか」ということです。

 

これについては残念ながら、「あまり活かせることはない」と僕は思います。

まず、翻訳などの「手に職系」の仕事のスキルだと、「会社員のレベルのアッパーが、フリーランスの下層」と言われています。

 

翻訳の場合、社内スタッフで翻訳をするのであれば、社内でチェック(校正)を行うことができます(どのスタッフも、「時間で価値提供をしている」ので、時間内にどれだけの仕事をしても、フィ-は変わりません)が、フリーランスであれば、社内チェックの負担が増えたり、社内で捌けない仕事を外注に出す場合に品質がそこまで高くない、という状態であれば、発注側からすると仕事を振りづらい、と考える側面があるのも事実でしょう。

(翻訳以外の業界がどうなっているのかよく知らないので、読者の業界の構造や考え方に当てはめて頂きたいですが)

 

とすると、仮に上のような状態で、社内で翻訳者をしながら勉強をしても、そのまま独立することが、単価アップと仕事の継続的受注に繋がるか、と言えば、微妙な問題です。

 

基本的に、フリーランス(外注)というのは社内で仕事を捌くよりもコストがかかる(外注費に加えて、メールのやりとりなどのトランザクション)わけですから、企業によってはそれだけのコストを払う以上のリターンを得たい、と考えるのは必然的なことでしょう。

 

ということは、会社員として評価されるレベルのスキルで仕事を行っていることが、フリーランスとして仕事をする、あるいは続けていくことに、必ずしも繋がるわけではない、ということを一度押さえておくべきです。

 

会社員と自営業(起業)は座標軸が違う

上でも書きましたが、一般的に「会社員は時間を切り売りする」「フリーランスはスキルを切り売りする」という、「ルールの違い」が前提にあります。

 

僕は、独立前に会社勤めをしていたのですが、当時はこのことに気づかなかったなと。

 

どういうことかというと、僕は「独立するのであれば、ものを売るスキルが必要になるだろうな」と、学生時代に考えて、営業職(求人広告の営業)に就きました。仕事の条件は薄給+長時間労働。その条件は黙認して、会社の仕事を通して勉強をして、独立するスキルを身につけよう、と考えていたのです。

 

しかし、会社員としての営業の仕事と、独立をして自分で営業をする、というのは、業態は同じかもしれませんが、中身は似て非なるものです。

 

どういうことか?まず、企業の中で組織の一員として営業をする場合、既にその商品やブランドというのは、世間一般にある程度認知されている、あるいは市民権を得ている状態です。これは当然と言えば当然ですが、ある程度名前が認知されている、機能が理解されている状態に、就職した時点で既に到達しているわけです。

 

これが、自分で起業をして、あるいは自営業として仕事をしていくのであれば、そもそもブランド力や信用といったものはありませんから、スタート地点はまさに「ゼロ」です(だから、転売ビジネスをするときには、既に「名前が知られている」ブランドを取り扱う、というのは、自分でブランドをゼロから作り上げる、という部分をショートカットできるので、合理的と言えば合理的です)。

 

つまり、多くの場合(必ずしも100%ではありません)、企業で仕事をするというのは、企業の看板を上手く使ってビジネスをする、というわけで、社員の1人1人の「ブランド」は、そこまで強くはありません(営業職とかで、顧客の悩みをきちんと察知して解決する、という凄腕営業マンは、もちろんいますが)。でも、既に「企業」というブランドがあるわけです(特に大手企業の場合)。

 

ですから、僕が会社員時代に「営業職」で身につけたスキル、勉強したことは、そのまま独立後に役立ったわけでは、必ずしもありません。むしろ、「物を売る」という側面からスポットライトを当てた場合、独立後には足枷になってしまっていた部分がありました。

 

このように、会社勤めと自営業(フリーランス)では、そもそも身を置く「座標軸」が異なるわけです。だから、どちらか一方の世界で学んだことが、他方の世界でそのまま使えるか、というと難しい。もちろん、参考になる部分はあるのですが、見方を変えたり、抽象度を高めて自分なりに咀嚼して取り込まないといけないので、ある意味レベルは高いのです。

 

独立前の会社勤めは、あまり関係ない。だからしっかりと「ルール」を勉強しよう

正直な話、独立前に会社勤めを経験することが、そのまま全て役に立つとは言えません。とは言っても、例えば同じ業界で独立をする(求人業界で会社勤めをした後、独立をして仕事をする)といった場合であれば、業界の人間関係や情報交換も含めて、会社勤めという入口からその世界に入っていくことは賢い選択です(僕の周りにも、そういうルートで独立をした若手のフリーランスは多いです)。

 

ただ、僕のように、独立後に身を置く業界が全く違う場合、会社勤めの経験がそこまで役に立つかと言えば疑問ですし、スキルを磨く、仕組みを作る、ということに時間を割く、ということを考えた時に、日中に「本業」で時間を取られるのは、マイナス要素に働いてしまうだって多いにあります。

 

独立前に会社勤めをしたほうがいいか、ということについては、「どんな業界で独立をしたいか」「独立をしてどんな世界に身を置きたいか」ということを考えて、どう行動をするかを考えたほうがいい、というのが、僕のアドバイスです。

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