こんにちは、藪内です。
2018年3月1日のニュースに、バルト三国のエストニアで「デジタルのノマドビザ」の発給が計画されている、というものがありました。
エストニアが365日有効な「デジタル・ノマド・ビザ」発行を構想。90日間EU旅行ビザ付き?
今回は、このビザ発給に関して僕の思うことを書き綴っていこうと思います。
エストニアは電子先進国
エストニアという国は、日本人の大半にとっては生涯で訪れることはない国かと思います。
場所はバルト三国、と言ってもピンと来る方は限定されているはず。地図で言うと、フィンランドの南にある小さな国で、その南にラトビア、そして更に南にリトアニアがあります。エストニアは旧ソ連だったこともあり、すぐ東にはロシアがあって、今でもロシア語話者が多い国です。
そんなエストニアは、実は「電子先進国」として一部の人に有名なんです。「電子国家」とは何かと言うと、行政のほとんどあらゆる手続きをインターネット上(オンライン)で完結できてしまうシステム。
現在は「e-Residency」という、エストニア国民以外の人でも居住者の権利を持つことができるプログラムです。実際、日本人でも、海外(エストニア以外の国)にいても申請はできますし、今回の「デジタルノマドビザ」の申請条件にも、このe-Residencyを持っておくことが明記されるかもしれない、と言われています。
e-Residencyについてはこの記事が分かりやすくまとめています。
また、エストニアは、現在全世界で使われているSkypeの創業者の出身地としても有名。ややこじつけの感もありますが、国全体で、デジタル(電子的)なものに対して抵抗を持っていない人が多いのではないでしょうか。
エストニアのデジタルノマドビザの要件
そんなエストニアでのデジタルノマドビザの要件は、現時点ではっきりとは分かっていませんが、
・最長365日有効で
・最長90日はシェンゲン協定の他の国にも旅行ができる(?)
ものと考えられているようです。
また、上述のようにe-Residencyを持っておくことも必要条件となる可能性が高いです。
こういう条件のデジタルノマドビザなんですが、個人的に面白そうと思う反面、不安もあるのが事実です。
以下では、それぞれについてまとめてみました。
①デジタルノマドビザへの期待
これはなんと言っても、日本人にとって「長期滞在できるヨーロッパの国」が増えることです。
ヨーロッパに長期滞在をする方法としては、留学や会社での駐在、国際結婚(配偶者ビザ)を除くと、ワーキングホリデーくらいしかありません。ここではワーキングホリデーに話を限定すると、2018年3月現在でワーキングホリデーが使えるのは、イギリス、アイルランド、ドイツ、フランス、ノルウェー、デンマーク、ポルトガル、スペイン、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの12カ国です。
ただ、ワーキングホリデーは30歳を超えると使えないため、これ以外の方法でヨーロッパに長期滞在するには、起業をする(起業家ビザを取る)、フリーランスになる(フリーランスビザを取る)、留学ビザを取る、など、何らかの形で「ビザ」を取る必要が出てきます。
そのため、このデジタルノマドビザは、30歳を超えても1年間ヨーロッパ(エストニア)で生活ができて、その間に他の国での拠点作りの足掛かりにするような使い方をするのもいいのではないかと思います。
期待は端的に言うと、「ヨーロッパでの生活の選択肢が増える」ということですね。
デジタルノマドビザへの不安
実は、僕はこの「不安」のほうが多いのです。
①日照時間の長短の問題
エストニアは、地図を見ると分かりますが、緯度が高い場所にあって、もう少し北に進むと北極圏に突入します(フィンランドの中央部分)。
北極圏を超えると、夏の一定期間は太陽が沈まない(白夜)になる一方で、冬の一定期間は太陽が顔を出さない(極夜)状態となって、生活サイクルへの影響が出る可能性があります。
僕は5月下旬にエストニアを旅行しましたが、夏至を1ヶ月前に控えたこの時期で、首都タリンの日の出は4時台、日没は23時頃というもの。もちろん、この前後にマジックアワーがあるので、真っ暗になる時間帯は24時間のうち3時間程度じゃないかと思います。
逆に、12月前後には太陽がほとんど顔を出さないシーズンがやってきます。単純に考えると、太陽が出ているのが4時間で、残りの20時間は太陽は沈んでいる(マジックアワーを含む)のです。
これは体験したことがある方にしか分からないと思いますが、旅行で数日訪れるならまだしも、数ヶ月にわたって日照時間が20時間、あるいは日照時間が4時間程度の環境に身を置いて生活や仕事をする、というのは、簡単なものではありません。
こういう環境で1年間、エストニアに拠点を持って「デジタルノマド」ができるのか?というのは、それぞれの環境適応力もあると思いますが、一般的に簡単なものではないと僕は思います。
②「なんちゃって」ノマド民の流入
もう一つ懸念しているのは、このビザが発給されるにあたり、自称「ノマド」「フリーランス」の人たちがどっと押し寄せてしまうのではないか、ということです。
「デジタルノマド」の定義は難しいですが、「ノマド」であれ「フリーランス」であれ、特に資格は要りませんから、自分で名乗ってしまえば、それで「ノマド」にも「フリーランス」にもなれてしまいます。
ただ、肩書きが横文字でいくらかっこよくても、中身が伴っていない人たちが集まってしまうと、「デジタルノマド」的には逆効果なのではないかと思うのです。
このいい例が、ドイツのベルリンでしょう。東西ドイツ統一後の首都であり続けたベルリンは、冷戦体制の影響もあって一国の首都としては決して水準が高い街ではありませんでした(ドイツのフランクフルトやミュンヘンのほうが、給与水準などが高いです)。
そこで、もともと何もなかった街から出発したベルリンが考えたのは、「外から人を呼び寄せる」ことでした。
外貨を持っている人たちを呼び込んで、お金をどんどん回してもらってベルリンの街を発展させていこう。
こういう考えのもと、ベルリンでは「フリーランスビザ」の取得が容易になるように規制を緩和して、結果的に2013年頃から、世界各地から「フリーランス」の人たちがやってきました。
ただ、ベルリンの策略だったのか見落としだったのかが分からないのですが、やってきた多くの「フリーランス」は、「なんちゃって」の人たちだったのです。
つまり、自国にいても結果が出ない、あるいは自国に嫌気が差して「ベルリンに流れてきた」人たちが一定数いたんですね。
僕は実際にベルリンに行って何人か「フリーランス」をしている人たちに会いましたが、その人たちの話によると、収入が低すぎてビザのフリーランスビザの更新すらできない人たちが、発給条件の緩い「アーティストビザ」をゲットして、ゾンビのようにベルリンに居座っている…なんてこともあるみたいです。
また、しきりに「ベルリンは良い街だ」と謳って、これから移住をしようとしている「後発組」の人たちをターゲットにしてお金を巻き上げる…なんてことをしている現地居住者が、国籍を問わず存在しているとのこと。
僕はもともと、ベルリンのフリーランスビザには興味があったのですが、実際に訪れて話を聞く中で、「これだけ大変だったら、別に住まなくてもいいかな」と思ったのです。
今でも、ベルリンの家賃はどんどんと上がり続けて、かつて「理想郷」と謳われた姿は過去の話、なんて一面もあるようで、現地で起業した(フリーランスではない)日本人とも話しましたが、以前ほどの魅力はなくなってしまった、と話していました。
個人的に、ベルリンがなぜこんな風になってしまったのかというと、「足切り」を設けなかったからだと考えています。
どういうことかというと、ビザ発給時に所得制限などを設けなかったので、ほぼ無収入の人でも、所得が低い人でもビザの発給が簡単にされてしまうような状態だったのです。
その後、複数の現地クライアントと仕事をしていないとビザが発給できない、というような条件に「厳格化」がされたようですが、エストニアでもそういう「二の舞」が起こってしまわないか、不安なのです。
そういう意味では、エストニアのデジタルノマドビザの発給条件には「前年の事業所得が4万ユーロ以上」「過去三年の事業所得(あるいは年収)が10万ユーロ以上」のような、集まって欲しくない人たちを寄せ付けないような足切りのシステムを発給条件に加えて欲しいものです。
まとめ
フリーランスにせよデジタルノマドにせよ、勝手に標榜することと、実施に結果を出し続けることには天と地ほどの差があります。電子先進国としての矜持を維持するためにも、エストニアには「集まって欲しい人」だけに足を運んでもらえるような、魅力的な「デジタルノマドビザ」の発給をしてもらいたいと思います。
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